新潟産大付に1-2
第106回全国高校野球選手権大会第3日は9日、兵庫県西宮市の甲子園球場で1回戦3試合を行い、埼玉県代表で5年ぶり8度目出場の花咲徳栄は初出場の新潟産大付に1―2で敗れ、惜しくも初戦敗退となった。
花咲徳栄が埼玉大会で見せた緻密な野球が、相手の2枚の技巧派投手の前に封じられた。二回に盗塁を絡め、1死三塁の好機を築くと6番横山の中飛で三塁走者石塚が生還。先制点を奪ったが、その後は相手の変化球に惑わされ打ち損じ、1―0のまま試合が進んだ。
持ち前の打撃センスでチームをけん引してきた3番生田目が無安打に抑えられたのも痛かった。主将でもある生田目は「テンポ良く投げ込まれ、余裕がなくなって追い込まれた。準備不足だった」と、打開策を見つけられないまま終盤を迎えた展開を悔やんだ。
先発のエース上原の球数が70球を超えた六回、2死三塁から二塁打を許し同点とされると、七回にも1点を与えて逆転された。上原は「六回に足がつりかけて、球威が落ち始めた。後半に体力のなさが出てしまった」と152球の力投にも下を向いた。
5年ぶりの甲子園出場を目指し、岩井監督が近年で一番ともに時間を過ごしてきたチームだったという。指揮官は「手をかけてきたからこそ、自分たちで考える力が少し足りなかったのかもしれない」と悔やみながらも、「甲子園は目で見るのと想像では全く違う。1、2年生は絶対に帰ってきたいという気持ちが強くなった」。3年生が築いた経験を次の代が受け継ぎたい。
影潜めた「緻密野球」
これが甲子園、そして初戦の怖さか。埼玉大会で1試合平均9得点を誇った花咲徳栄打線がわずか1点に終わった。先手は取ったものの1点差に泣いた。主将の生田目は「淡々と試合が進んでいって気が付いたら終盤だった。試合の流れに置いていかれた」と肩を落とした。
変化球を有効に交えてくる新潟産大付の2投手を最後まで打ち崩せなかった。二回に横山の中犠飛で先制したが、五回2死一、三塁で仕掛けた二盗が失敗に終わり、追加点の機会を失った。
六回には目黒が相手投手の変わりっぱなを捉え中前打で出塁するも、併殺で逸機。先発に比べて球速の落ちる相手2番手に対し早打ちが目立つようになり、凡打を重ねた。
岩井監督は「良い当たりだけれどちょっとずれていた。つながるところで走塁ミスが出て自分たちの野球にならなかった」と悔やんだ。優れた選球眼で四球を選ぶなど隙のない攻撃を身上としてきたが、この日は1死球と打開の糸口を見いだせなかった。
県大会で見せた緻密な野球は影を潜め、初戦敗退。聖地で勝つことの難しさを感じる一戦だった。それでも岩井監督は「彼らは一つの歴史の扉を開けてくれた。そこに感謝しなければいけない」。県内3冠を成し遂げ、5年ぶりの甲子園に立った選手たちをたたえた。
故郷に見せた存在感
先制の犠飛 6番・横山
花咲徳栄の6番横山が大舞台で先制の犠飛を放ったが、奪った得点はこの1点のみ。「負けて本当に悔しい。先制点が取れて良かったけれど、そのあとにチャンスがなかった」と目を赤くした。
冬に打力強化のため握力を20㌔、体重を7㌔増加。今夏は守備でも貢献し「冬に意識を変えて死ぬ気でやってきて守備もバッティングも確実性が上がった」と確かな存在感を示した夏だった。
新潟県出身。同郷で二つ上のエースだった金子翔柾投手に憧れ、甲子園で勝つために花咲徳栄を選んだ。故郷の代表との対決で、相手校には友人もいた。「絶対に勝たなければいけないと思っていたが負けてしまった。地元でもあるし、絶対に優勝してもらいたい」と悔しさを抱きながら、ライバルたちへエールを送った。
成長と充実の152球
エース 上原
2失点完投した花咲徳栄のエース上原
152球の力投を見せたエース上原だったが、「1点を守り切ろうと思ったけれど、体力が無くて後半は甘く入ってしまった」と高く浮いた球を拾われ失点した六、七回の投球内容を悔いた。
140㌔台の速球と変化球を組み合わせ、要所で相手の好機を封じるなど馬力のある投球で2失点完投。勝利は手にできなかったが、力を出し切り「悔しい思いをしてやっとの思いで最後に甲子園の切符をつかめて本当に良かった。気持ちの面で成長できた」と充実感をにじませた。
明確な課題 次の舞台に
4番・石塚
打撃でチームをけん引してきた4番石塚が果敢に盗塁を絡め、チームで唯一のホームを踏んだ。だが、第2打席以降は凡退し「打ち急いで強引に行ってしまった。もう一回やり直したい」と下を向くしかなかった。
普段得意とするじっくりと狙い球を待つ選球眼と冷静さを欠いたことを課題に挙げ、「どんな球でもどんな投手にも対応できるようにするため、もう一回できることからやっていきたい」。プロ野球選手を志し、この悔しさを次のステージにつなげるつもりだ。
ナインのひと言
①上原堆我投手 今まで立ったことのないマウンドに立てて良い経験になった。本当に景色が良くて投げやすかった。
②田端太貴捕手 甲子園の舞台まで行けて、ずっと鍛え上げてくれた岩井監督に少しは恩返しができたかもしれない。
③横山翔也一塁手 全員が勝ちたいという気持ちでできた。最高の仲間とここまで来られて本当に良かった。
④斎藤聖斗二塁手 覚悟を持って北海道から出てきて不安だったが、やるからにはやると決めて過ごして後悔はない。
⑤阿部航大三塁手 甲子園に入る前からわくわくしていた。終始緊張せず終わるまで楽しかった。出られて良かった。
⑥石塚裕惺遊撃手 甲子園は一球一打に対する歓声や雰囲気がほかと全く違って、野球人生において貴重な経験だった。
⑦田島蓮夢左翼手 県大会よりもあっという間だった。先輩が5年ぶりの甲子園に連れてきてくれたので続きたい。
⑧生田目奏中堅手 本当はもっと長く試合がしたかったけれど、厳しい戦いを勝ち抜いて1年間頑張ってきて良かった。
⑨目黒亜門右翼手 お客さんの数や声援が県大会と違って楽しかった。もっとチャンスをつくれれば良かった。
⑩岡山稜投手 勝つことはできなかったが、甲子園に行くという目標は達成して、良い試合ができてうれしかった。
⑪今井大地投手 つらいことばかりだったけれど最後は甲子園に出られて、全部報われて良かった。
⑫奥村颯太捕手 2年半やってきて甲子園で終われたのは良かった。野球漬けの毎日はすごく濃くて楽しかった。
⑬大沢璃一内野手 甲子園の舞台にみんなで来られて良かった。勝てれば良かったが一試合戦えたのがうれしい。
⑭森沢壮内野手 2年半、けがなどで思うようにできなかったが、目指してきた場所でプレーできて良かった。
⑮額川康一投手 みんなで甲子園優勝を目標に掲げてここまでやってきて、出場できて良かった。
⑯更科悠風内野手 まさか出身の新潟と当たるとは。まだ引退という感じはしない。今まで甲子園に行くために頑張れた。
⑰岩井福外野手 ここまで来られて良かったなと思う。達成感はあるけれど、もっと甲子園でプレーがしたかった。
⑱和久井大地投手 最後の夏だけを見てやってきて甲子園に行けて良かったけれど、本当は投げてみたかった。
⑲松田空外野手 終わった実感がない。甲子園に行くためにこの学校に来た。勝つことができなくて悔しい。
⑳青野隆太郎捕手 3年生でキャッチャーの背番号をつけられて良かった。甲子園は良い場所だった。
大応援団 選手を鼓舞
第106回全国高校野球選手権大会第3日は9日、甲子園球場で1回戦3試合を行い、第1試合に登場した花咲徳栄は新潟産大付に1―2で惜敗した。一塁側の花咲徳栄スタンドにはおそろいのライトブルーの帽子、ポロシャツなどを身に着けた約1400人の大応援団が駆け付け、最後の最後まで力の限り声援を送り、選手を鼓舞した。
一塁側アルプス席から声援を送る花咲徳栄の生徒たち=9日午前、甲子園球場
スタンドを真っ青に埋め尽くした大応援団をけん引したのは、3年生野球部員で生徒会長も務めている山田勘太郎応援団長(18)。「負けるわけにはいかない。内野、外野も巻き込めるような応援がしたい」と気合十分でアルプス席を盛り上げた。
この日は現役部員がコンクール出場で来られないため、吹奏楽部OB19人による即興ブラスバンドが組まれた。在学2年時、2017年の決勝までサックスを演奏したという大嶋莉子さん(23)は「応援の団結力をつくり出すのが吹奏楽の役目。選手たちも気合が入っているけれど、負けないくらい応援したい」と少人数ながら、心を込めた音楽で応援に花を添えた。
17年の優勝メンバーで、右翼手として出場していた小川恩(めぐむ)さん(24)も後輩たちのプレーを見守った。優勝以来、初めて来たという甲子園での花咲徳栄の応援に「きょうは緻密に構築された1点をもぎ取る野球が見たい。勝つには絶対的な自信が必要。リラックスして臨んでほしい」と熱いエールを送った。
女子マネジャー6人も野球部員たちと共に応援に加わった。3年生の太田遥菜さん(17)は「選手たちはうまくいかなくても、ずっと頑張ってきた。県大会以上に声を出して、選手たちに届くように全力で応援したい」と声がかれるほどの大声で選手たちを後押しした。
試合は1点リードのまま終盤を迎えたが、逆転負け。最後まで諦めず接戦を演じた選手たちに、田端太貴捕手の父親で父母会長を務める千敬さん(54)は「こんなにたくさんの方が応援に来てくれて、本当にありがたくて感謝しかない。全て出し切った結果で、選手たちは一生懸命、力を出してくれた」と敗戦にも、埼玉を背負って戦った自慢の選手たちをねぎらった。
父の野球追いかけ2年半
花咲徳栄 岩井監督の長男・福
9日に行われた第106回全国高校野球選手権大会1回戦の花咲徳栄―新潟産大付戦で、花咲徳栄は1―2で惜敗。背番号17を付け三塁コーチャーとして出場した岩井福は「選手としての役目はきょうで終わり。これからはチームのサポートに回りたい」と球児として最後の夏を終えた。
花咲徳栄―新潟産大付 三塁コーチャーとして甲子園の舞台に立った岩井福外野手=9日、甲子園球場
福と書いて「ゆたか」と読む。岩井隆監督の長男で、5年ぶりの甲子園は親子での出場となった。父親が監督。高校選びは決して簡単ではなかった。中学時代は試合で活躍する選手ではなく「埼玉でトップクラスの学校に自分が行って何になるんだ」。悩みに悩んだが、周りの声に後押しされ入学を決意した。
入学後は父を「岩井先生」と呼び、親子ではなく師弟として過ごした。岩井監督は「どうしてもAチームの子たちに教える機会が多くなる。本当はお父さんとして野球を教えたかった」と本音を吐露したこともあった。
福は緻密に計算された「徳栄野球」を誰よりも理解しようとこの2年半、父の野球を追いかけた。もともと統計学や分析に興味があり、物心ついた時から野球の専門書を読むことに熱中した。卒業後は大学進学を希望し、選手ではなく学生コーチなどとして野球に携わり、将来はスポーツアナリストになりたいという夢を持つ。
「小さい頃はたくさん野球の話をしたけれど、チームに来てからほとんどできなかった。一区切りついたので技術的なことを伝授できたらいい」と岩井監督。福は「岩井先生の野球技術に、最先端の情報技術を組み合わせればもっといろいろな指導方法が見つかる」と父を支えられる存在を目指す。監督と選手としての歩みが終り、父と子に戻る。新たな道が始まろうとしている。
=埼玉新聞2024年8月10日付け1、8、18面、11日付け7面掲載=
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