銀幕に踊る 水の道化師
顔を白塗りした、道化師が水中でおどけながら高く跳んだり、踊ったり、後ろに泳いだり。楽しく愉快なパフォーマンスを繰り広げる。「THE Swimming Clown~水の導化師の物語~」は、競泳の100㍍平泳ぎ元日本記録保持者で春日部共栄高校出身の不破央(ひさし)さん(56)のドキュメンタリー映画。水中パフォーマンスを26年間続けてきた不破さんが昨年末に引退するまでの10カ月をカメラが追った。今月23日まで(木~月曜)、さいたま市大宮区のミニシアターOttO(オット)で上映されている。
「水中パフォーマンスを知ってもらう機会になれば」と話す不破央さん=さいたま市大宮区のミニシアターOttO
■五輪挑戦に失敗
不破さんは、静岡県富士市出身。小学校1年の時に水泳を始め、すぐに頭角を現した。中学からは五輪を目指す強化選手として都内で合宿生活を送った。春日部共栄高校に進学した1984年、日本選手権男子100㍍平泳ぎで優勝。同年のロサンゼルス五輪を期待されたが、代表選考会の1カ月前に練習所近くの道路でマンホールに転落、右膝裂傷の大けがを負った。
86年、17歳の時に日本選手権で日本記録を更新。同年全米オープンでも自身の記録を塗り替え優勝した。しかし大学、実業団時代はけがやうつ病の発症など苦難が続き、ソウル、バルセロナも五輪出場はかなわなかった。
■人生の転機
現役を引退した不破さんが選んだのは、青年海外協力隊。水泳指導者としてグアテマラに派遣された。ところがプールはヘドロまみれ、周りは草が生い茂っていた。「情けない気持ちで泣きながらプール掃除をした。でも、人生何が起きるか分からない」と不破さん。復活したプールで指導を始めたものの子どもがついてこない。泳げない子に教えたことがなかったからだ。転機は子どもが発した一言だった。「どうしたらそんなに速く泳げるの?」
不破さんは「ああ、そうか。疑問に答えてあげるのが先生の仕事なのか」と気づいた。遊びからの興味関心、そして指導へ。2人だった教え子は2年後120人になっていた。一人はグアテマラ代表として五輪選手になり、一人は水泳連盟の会長になった。映画の中には感動の再会シーンも盛り込まれている。
■選手から道化に
映画の一場面
帰国後に興味を持ったのが芝居。養成所に通う中、セリフがなく人々を楽しませる道化は「自分の性に合っている」と思った。「プールに突然やってきたピエロが何をするだろう」とストーリーが頭に浮かび、水泳を舞台にした「道化のパフォーマンス」のアイデアが湧いた。
初演は98年、奈良県の養護施設のプール。「子どもたちの興奮した様子が今でも忘れられない」と不破さんは言う。幼稚園やイベントなどで地道に続けたパフォーマンスが「水の道化師」として報道番組に取り上げられ、2000年、映画「ウォーターボーイズ」の水中演技指導を手がけることになった。反響は大きく、不破さんも高く評価された。仲間も増えた。水泳指導とパフォーマンス公演を行う「トゥリトネス」を立ち上げ、代表取締役に就任。そして昨年、腰痛の悪化で引退を決意した。
映画は1015回目の最終公演までを丁寧に描き、仲間との絆やパフォーマンスへの思いを伝える。監督、撮影は竹内佳嗣さん、ナレーションは俳優の妻夫木聡さんが担当。
上映日、時間などはOttO(☎048・871・8286)のサイトで確認を。
=埼玉新聞2025年6月13日付け10面掲載=
サイト内の春日部共栄高校の基本情報は→こちら
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