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作家・逢坂冬馬さん 浦和一女高校で講演

戦争は地獄の始まり
平和への思い 作品に込め

 

 ソ連の女性狙撃兵が主人公の小説「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房)で知られる所沢市出身の作家・逢坂冬馬さん(37)が21日、さいたま市浦和区の県立浦和第一女子高校で講演し、作品に込めた平和への思いを語った。「開戦となったら最後、地獄が始まるのが戦争。文化は戦争の目障りになることができる。それを一つの目標としたい」と述べた。

 

高校生を前に講演する作家の逢坂冬馬さん(左から2人目)=21日午後、さいたま市内

 

 逢坂さんは所沢市生まれ、横浜市育ちで、昨年からさいたま市内に住む。「同志少女よ―」は、母親を独軍に殺された18歳のセラフィマが狙撃兵となり、ほかの女性らと共に第2次世界大戦下の独ソ戦を生き抜こうとする物語。2021年11月に出版されると版を重ね、デビュー作でありながら今年の本屋大賞、高校生直木賞に輝いた。人が命を失うことの実態や戦時下の女性の苦しみを描いており、ロシアによるウクライナ侵攻と重なってさらに注目を集める1冊となった。
 小説はソ連に実在した女性だけの狙撃部隊から着想を得た。逢坂さんは「独ソ戦の小説がほとんどなく、性犯罪や女性同士の連帯を前面に出した『ジェンダー』をテーマにすることで、新しい戦争小説になると確信した。男性作家が女性視点で戦争を書けるのかと、ちゅうちょもあった。けれど資料で苦難を追体験し、人間は普遍的な存在という視座を持つことで書けた」と話した。
 小説のエピローグには、1954年のロシアからウクライナへのクリミア半島割譲を受け、主人公が「ロシア、ウクライナの友情は永遠に続くのだろうか」と思いを巡らすなど、今の情勢を示唆する内容も。そのため取材でウクライナや戦争についての質問が増えたという。逢坂さんは「(執筆した時は)まさか現実の戦争とリンクしてこの話が読まれるとは夢にも思ってなかった」と胸中を明かした。
 講演を聞いた生徒から「ウクライナ侵攻はどうなるのか」との質問には、「終わらせ方が当事者にも分かっていない。ウクライナ側は『撃退する』『妥協しない』と言い続けるしかないし、ロシア側も本当はやめたいのに、人命が失われたので領土割譲など何かを引き出さなくてはいけなくなった。一致点が見いだせず、終わりが見えないのが今。このことから、戦争を始めさせないことが大切ということが学べる」と語った。
 講演には、浦和一女の生徒や教諭ら約80人が参加。今回の講演の企画者の一人、2年生の倉淵咲名さん(16)は「戦争小説を読んだことがなかったけど、同世代の少女が主人公ということで共感できたし、この本を読んでウクライナで起きていることを想像できるようになった」と話した。

 

=埼玉新聞2022年10月23日付け15面掲載=

 

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