県立飯能高校「すみっコ図書館」司書 湯川 康宏さん
「いる場所さえない生徒にこそ図書館に来てほしい」と語る湯川康宏さん=飯能市本町の県立飯能高校
「読書のための空間」のイメージは、入り口に流れるBGMに揺らぐ。こたつが備わり、縫いぐるみやコスプレ衣装も置かれている。県立飯能高校(飯能市)4階の「すみっコ図書館」。司書の湯川康宏さん(58)は「誰もがいつでも来られる場所は、図書館以外にはない」と説く。
県立図書館に長く勤め2016年、同校図書館に来た。お薦の本を生徒が尋ねてくる。そんな印象が、学校図書館にはあった。着任して1カ月。気付けば閑古鳥が鳴いていた。「スキルが役に立たないという現実をたたきつけられた」。湯川さんは顧みる。
生徒が訪れる図書館とするために、何をすべきか。着想したのが「逆張り」だった。本を読まなければだめ、おしゃべりも飲食もだめ…。「今まで『だめ』と言われてきたことが、生徒を来なくさせている原因だと考えた」と話す。
館内は読書や学習、交流などのゾーンに区分されている。満員になるのは昼休みだ。理由は「お弁当が食べられるから」。勉強する生徒、ゲームで遊ぶ生徒。もちろん本を借りる生徒もいる。「だめ」を解いた図書館には、多い日で50人余りが姿を見せる。
「生徒から家と呼ばれる存在になりたい」。それが当初からの願いだ。「心が苦しくなった生徒は保健室に行くが、定員もある。独りぼっちで、いる場所さえない生徒にこそ来てほしい」と導く。
蔵書数約3万7千冊のうち60冊余りを集め、「あなたをまもる本」のコーナーを作った。いじめや自死、性に関する本が並ぶ。自由に持ち出すことができる。「悩んで解決策を探し本にたどり着いたが、借りる時に恥ずかしいなどと思ってしまう。人がいるがために借りられないのは、本の存在意義を殺しているのと変わりがない」。そう語る。
「本を読まなくていい」と訴えるがゆえに、本を読んでもらえるように心を砕く。「本の楽しさや必要性を感じる場面が、人生にはあると思う。まずは図書館に来て、本に近づいてもらう」。花が咲くのは20年後30年後でも構わない、と考えている。
=埼玉新聞2024年2月3日付け10面掲載=
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今年度、「進学を重視した地域と協働する単位制の高校」としてスタートしました。単位制の導入により、教科・科目の選択幅を拡大し、多様で教科横断的な科目を設置した教育課程を編成しています。進学を重視し、特に特進クラスでは一般選抜で大学進学を実現できる実力を養成します。また、総合的な探究の時間や2・3年次の選択科目「地域創造学」では、綿密な3年間の計画のもと、飯能高校でしかできない地域と協働した探究活動を行っております。今年度より開設したアクティブラーニング室、ラーニングコモンズ(自習室)等の、他の学校にはない充実した施設も本校の特徴の一つです。
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