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注目のICT教育 ―県内公私立高校の現状は

 ICTとは、「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略です。ICT教育は、こうした技術を学校教育に取り入れようとするものです。
 全国の公立小中学生には、GIGAスクール構想と呼ばれる国の政策に基づき、この4月までに一人一台の端末(タブレットやクロームブック)が配布されました。皆さんの中学校でもその利用が進んでいることでしょう。
 高校でもICT教育は盛んに行われています。公立高校では、各校とも昨年度末までにWi-Fiなど校内通信環境の整備と普通教室へのプロジェクター設置が終わり、設備面での体制は整いました。しかし、一人一台の端末配布については進んでいる学校と、十分に進んでいない学校とがあります。
 私立高校では、学校ごとに違いはあるものの、全体としては公立よりも早くICT教育に取り組んでいます。昨年の長期にわたる臨時休校の際、多くの私立がただちにオンライン授業に切り替えられたのも、それまでの経験の蓄積があったからと言えます。
 ICT教育というと、どうしても通信環境整備や端末配布の状況に関心が向かいがちですが、それらはあくまでも道具に過ぎません。授業や行事、あるいは部活動などさまざまな場面でどのように活用されているか、また、それによって生徒たちがどのような能力を伸ばしているかが真に重要なのです。学校説明会などでは、環境面もさることながら、活用とその成果についてよく聞いておくべきでしょう。

 

公立のトップランナー
さいたま市立大宮北高等学校

 公立のオンライン教育について、しばしばその対応の遅れが指摘されるが、大宮北高校(さいたま市北区)には全く当てはまらない。同校では、1人1台端末(タブレット)を2019年度の段階で既に学校全体で達成している。理数科に至っては、それに加え各自にノートパソコンが提供され、用途に応じて2台を使い分けている状況だ。もちろんWi-Fi環境の整備、全普通教室への電子黒板機能付きプロジェクター設置などインフラも万全だ。ここまでICT教育環境が整っている学校は私立でも少ないだろう。
 昨年の長期にわたる臨時休校期間中も、先生、生徒ともにタブレット使用に習熟していたため、スムーズにオンライン授業に切り替えられ、学習の遅れを最小限に食い止めることができた。筒井賢司教頭は「1日4時間の授業に加え、朝と帰りのホームルーム、担任との面談、補習・補講なども普段に近い形で実施でき、良好なコミュニケーションを維持することができた」と振り返る。
 ICT機器利用のイロハから習っている学校や、いまだに端末すら行き渡っていない学校もある中、はるか先を走っている同校が目指すのはICTを基盤とした授業改革だ。単に今までの授業をICTに置き換えるのであれば、それはすでに終わっている。今、同校では、個別最適化された生徒たちの新たな能力開発につながる先進的な授業の実現に向け研究と実践が進められている。
 公立ICT教育をリードする同校には県内外から多くの教育関係者が視察に訪れるという。未来を先取りする同校から目が離せない。

 

導入定着の成果は進学実績にも
開智未来高等学校

 2017年度から段階的にタブレットを導入し、学びのためのツールとしてのPCやタブレットの使用が校内で定着している開智未来高校(加須市)。ICT教育の導入をいち早く取り入れた同校の取り組みは、進学実績にも表れ始めている。
 昨年、新型コロナウイルス感染拡大防止のための休校期間中に配信した同校の動画の数は2400本。同じ単元であっても習熟度別に学習動画の内容を変えるなどの細かな対応を取っていった。テキストの必要な教科については、教師が機転を利かせ、コンビニのインターネットプリントを活用。全生徒がテキストの資料を手に入れることができた。
 学びを止めず、計画的に授業を進めていった同校。「『自分たちの受験はどうなるの?』といった生徒の不安は軽減することができたと思う」と加藤友信校長。2021年3月卒業生185人のうち東京大学教養学部の学校推薦型選抜で1人の合格者が出たことを皮切りに、50人が国公立大学に合格した。
 今後は、生徒のタブレットに入れた家庭学習用のアプリの有効活用にも力を入れていく。各教科で自身ができなかったところを浮き彫りにし、その箇所を補完するための学習課題が出される学習アプリ。加藤校長は、「既にアプリでは、生徒の主体的な学び・気づきができる仕組みができているが、そういった学びを生徒自身ができるようにしていきたい」と語る。

 

環境整備で質を高めた授業を
県立春日部高等学校

 今年の1年生から生徒1人に1台のタブレットを導入した春日部高校(春日部市)。生徒の学びの個別化・最適化を目指し、昨年度プロジェクトチームを発足させ、ICTの特性を有効活用した学びについて研究を積み重ねてきた。課題や資料の配信、共同編集機能の活用、小テストやアンケートの配信など既にICTの特性を有効活用した教育活動が展開されている。
 1年生の英語の授業では冒頭の5分間、英語の本を読む時間を取り入れる。インターネット上のプログラムには数千冊の電子書籍が収録されており、生徒たちは自分の興味のある書籍を選ぶ。「もちろん授業内では読み切ることはできませんが、授業以外の時間でも読み進める生徒も出てきています」と話すのは中川未来教諭。「個人のレベルに合わせて本を選ぶこともできるので英語多読に役立つ」と語る。
 教師から生徒へ提供される小テストでもタブレットを活用する同校。「教師は、生徒がつまずくポイントは経験で分かっているものですが、そのポイントがよりはっきりと分かるようになっている」と話すのは櫻田忍教頭。生徒からの答案は自動集計されるため個人の結果はもちろん、統計データとして教師の手元へ戻ってくる。櫻田教頭は「学びの質を高めるためのひとつのツールとして活用していければ」と力を込める。

=埼玉新聞2021年7月1日付け 

 第2部「高校入試対策特集」8・9面=

 

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