第105回全国高校野球選手権記念埼玉大会は28日、県営大宮球場で決勝を行い、Aシード浦和学院が7-2でDシード花咲徳栄に快勝し、2年ぶり15度目の優勝と甲子園出場を決めた。
浦和学院は、同点の四回に2死満塁から3番喜屋武が放った2点勝ち越しの適時二塁打が決勝点となった。投げては4人の継投で2失点にまとめた。
優勝した浦和学院は、全国高校野球選手権大会(8月6~22日・甲子園)で県勢として6年ぶり2度目の深紅の大優勝旗を目指す。
2年ぶり15度目の甲子園出場を決め、大きな声で校歌斉唱する浦和学院ナイン
一丸の思い 大粒の涙
燃えるような赤色で埋め尽くされた三塁側スタンドが歓喜に沸いた。Aシード浦和学院が2年ぶりに夏の王座を奪還。夏、15度目となる聖地への切符を手にした。
就任2年目で初めて夏の甲子園出場を決めた森監督は「生徒たちに本当に感謝したい。44期生(3年生)は去年の夏の決勝で負けを経験してずっと悔しい思いをしてきた。全員野球ができるのが長所で、きょうは全員でつかんだ勝利」と大粒のうれし涙を流しながら選手たちをたたえた。
県内4季連続優勝の実績と自信を手に挑んだ昨夏は、決勝で聖望学園に0―1と完封負け。「あの負けの後はなかなか思いが結びつかなかった。でも最後は夏。あの聖望戦があったから今がある」と森監督は悔しさを胸に、この夏に懸けた。
現チームは秋、春と決勝で昌平に屈し3季連続で準優勝と、頂点まであと1勝が続いていた。だが春季関東大会で、選抜大会8強の専大松戸(千葉)から八回までリードを奪うなど、大一番に向けて着実に成長を遂げていた。
「最弱の世代として始まったチームだった。全員でやらないと勝てない」と1番を打つ小林。指揮官の「今年は全員がエースで、主軸で、中心選手」という言葉の通り、投手を中心に守備の整備を重点的に行い、打順を積極的に入れ替えながら攻撃の活性化を図るなど、チーム一丸で夏に照準を合わせてきた。
今夏、選手たちの思いが一つになった。つながりが生まれた打線は7試合で81安打66得点を記録。エース伊藤が不調で登板機会が減る中で、投手陣は左腕鈴木を軸にわずか5失点。圧倒的な攻撃力と安定感を誇る投手陣がうまくかみ合い、頂点まで駆け上がった。
優勝を決めたナインは、マウンドで歓喜の輪をつくり、試合後に何度も抱き合って健闘をたたえ合った。「胴上げが下手すぎるよ」。言葉とは裏腹に、夏の県営大宮で初めて宙に舞った森監督は笑顔であふれていた。
森大監督を胴上げする浦和学院の選手たち
グラウンドの選手に声援を送る浦和学院応援団
浦学「超速攻」の理想体現
ともに2桁安打の打ち合いとなった試合は、浦和学院が1―1の四回に、花咲徳栄のエース木田を攻略して4点を勝ち越し。六回にも2点を追加して押し切った。
浦和学院は三回2死二塁から5番三井の右前適時打で先制。同点の四回は、2死満塁から3番喜屋武、4番西田、5番三井の連続適時打で4点を追加した。六回には、5番三井のタイムリーなどで2点を奪い、畳みかけた。投げては先発鈴木が3回被安打4、1失点。四回から渡辺、八回から月野が無失点でつなぎ、九回は田中が1失点に抑えた。
花咲徳栄は、2番生田目が放った三回の右犠飛と九回の左前適時打の2点のみ。相手を上回る計13安打を記録したが、長打が1本だけと好機を生かすことができなかった。
多彩な攻めで圧倒
強固な打線を形成した浦和学院が、圧倒的打力で勝ち上がってきた花咲徳栄を圧倒し、2年ぶり15度目の頂点に立った。集中打あり、小技ありの多彩な攻めで相手に重圧を与え続けた。森監督は「チャンスメークして、みんなで線になって点数が取れた」と選手たちのプレーをたたえた。
理想とする攻撃の形をを四回に示した。石田の内野安打を起点に、江口の犠打などで2死満塁。3番喜屋武の右前打で2点を勝ち越すと、1年の4番西田、2年の5番三井も続き、クリーンアップの3連続適時打で一挙4点。指揮官は「あれ(四回の攻撃)が全て。2アウトから点数が取れたのはすごく大きい」と、一体となった攻撃を評価した。
投手陣も個々が役割を全う。登板した4人が持ち味を発揮した投球で、強打の花咲徳栄打線をわずか2失点に抑えた。「振ってくるのは分かっていた。真っすぐを見せつつ変化球で的を絞らせないようにした」と捕手篠塚。五回を除き毎回安打を許しながら、要所を締めたことで徐々に試合の流れをつかんだ。
大会は全7試合で先取点を奪い、一度も追い越されることはなかった。指揮官が掲げるのは、全員が機動力と状況に応じた打撃で積極的に仕掛ける「超速攻野球」。先手必勝の戦い方を選手たちが体現したことで勝利を重ねた。
準々決勝前日の24日、10年間同校のコーチを務めた三浦貴さんが帰らぬ人となった。選手たちは準々決勝後に悲報を耳にした。1番を打つ小林は「まず勝って甲子園に行くこと。それが一番の恩返し」と心に決め、準決勝と決勝を戦った。
選手たちはさまざまな思いの中、念願の優勝旗を勝ち取った。「今まで味わえなかったマウンド集まりをやっと経験できた。優勝できてきょうは最高の一日」と小林。甲子園の頂点を見据えるナインの忘れられない夏が続いていく。
花咲徳栄―浦和学院 4回表浦和学院2死満塁、喜屋武が右前に勝ち越しの2点適時打を放つ。捕手柴田
主導権握る殊勲打
決勝打を放った殊勲の3番喜屋武は優勝決定の瞬間、ライトから全力疾走でマウンド上へ向かい、「つらく苦しい練習が報われた。本当にうれしい」と歓喜の輪で喜びを爆発させた。
主導権がどちらに転ぶか分からない1―1の同点で迎えた四回2死満塁。打席に立った喜屋武は、真ん中高めに来た狙い球のストレートを思い切り振り抜くと、打球は右前へ。打った瞬間「よし抜けた」と確信する値千金の勝ち越し2点適時打。「序盤でチームに勢いを与えられた」と背番号9は笑顔で振り返った。
3年生の一打が浦学打線に勢いを与えた。続く1年生の4番西田、2年生の5番三井も連続適時打。面白いように主軸がつながり、この回4得点。序盤で勝利の女神を味方につけた。2死から3~5番の3連続適時打に森大監督も「2アウトから点を取れたことが本当に大きかった」と評価。「線になって打てた」と理想的な攻撃をたたえた。
出身の沖縄を離れて浦和学院に入学したのは、中学時代に森士前監督から声をかけられたことがきっかけだった。当時は同じ沖縄出身の宮城誇南投手(早大)がチームで活躍していた。「自分の力がどれくらい通用するか試したい」。同郷の先輩と切磋琢磨(せっさたくま)し、今大会は主軸へ成長。貴重な一打で見事に埼玉の頂点をつかみ取った。
さあ2022年選抜大会以来となる自身2度目の甲子園だ。今回の甲子園は意味合いが違う。前回は「先輩に連れて行ってもらった大会」、今回は「自分が中心になる大会。甲子園で成長した姿を見せる」と意気込む。聖地でも主役の座は渡さない。
ピンチも臆さず
3回を投げて1失点と好投した浦和学院の先発鈴木
森監督から「実質エース」と評される鈴木が、決勝マウンドでも重要な序盤に1失点と好投。「1イニング1イニング死ぬ気で抑えよう」とマウンドに向かった。
一回に迎えた1死一、三塁のピンチにも臆さなかった。「初回に満塁のチャンスで点が取れず、流れを渡してしまった」と感じていた。花咲徳栄で攻撃の鍵を握る4番小野、5番増田と対峙(たいじ)。選んだのは得意の直球での真っ向勝負。「4番は真っすぐで詰まらせて、5番も真っすぐで押し切る」と、理想通り捕邪飛と三振を奪い、無失点で乗り切った。
今大会は、これまでエースを務めてきた伊藤に代わり先発する機会が多く、大車輪の活躍。「秋、春と伊藤に頼り切ってしまった部分があった」。次は自分の番だとベストボールを投げ続けた。スピードが出ない分、コースを意識した制球で「打たせて取る」を意識し、大舞台でも勝利への流れをつくった。
春にベンチを外れた屈辱も鈴木を強くした。「スタンドで悔しい思いをした。夏に活躍したいと強く思った」。甲子園に臨む背番号19は「自分の結果よりもチームのために、とにかく楽しんで、全員野球で一生懸命に戦う」と力を込めた。
主将の江口 チームけん引
主将の9番江口が1安打、2犠打でチームに貢献した。守りでは九回2死一、二塁、中堅に飛んだ打球を捕球。ウイニングボールを手に仲間が集まるマウンドへ走り、「実感が湧かない。あっという間に終わった」とほほ笑んだ。
3月、急きょ主将を任された。当初、不安もあったが「小林と二人三脚で信頼し合ってやった」と引っ張ってきた。昨春以来の甲子園。前回は帯同メンバーで「同級生がプレーしていて悔しかった」。最高の思い出にするために聖地へ挑む。
頼もしい気合の一打
1年生ながら強力打線の4番を任されている西田が、2打点と期待に応えた。一、三回には好機で打席が回ってきたが「球場の雰囲気にのまれて、初回、三回と悔しい思いをした」といずれも凡退した。
悔しさを晴らす場面は四回の2死一、三塁で回ってきた。「絶対に打ってやろうと打席に入った」と気合の一振りは待望の中前適時打。六回にも内野ゴロで1打点を挙げた。「1年生として出させてもらっている。甲子園の雰囲気を楽しんできたい」と4番のプレッシャーと向き合う頼もしさを見せた。
自画自賛の先制打
3回表浦和学院2死二塁、三井が先制の右前適時打を放つ
2年生三井が3本の適時打で3打点。特に三回2死二塁から、0―0の均衡を破る右前先制打は「手首使って、低めフォークをうまく拾えた」と自画自賛の一打だ。
四回にはチーム5点目、六回には勝利をぐっと引き付ける貴重な7点目をたたき出した。大舞台での大仕事に「調子も上向きでチームに勢いつけられた」と満足げに話した。好調故に徳栄投手陣から厳しい攻めを受けて2死球。裏を返せば認められた強打者の証しだ。背番号15は「甲子園でも打ちたい」と活躍を誓った。
ナインひと言
①伊藤充輝投手 甲子園では最高の調子にできるように、計画的にやっていく。
②篠塚大雅捕手 埼玉の代表として、甲子園でも勝ちきれるように全力でやっていく。
③名波蒼真一塁手 甲子園でも全員野球で、自分の役割を、与えられた場面で発揮したい。
④月山隼平二塁手 埼玉代表としてここで満足するのではなく、全国でも勝ち上がる。
⑤西田瞬一塁手 1年生として出させてもらっている。甲子園でもワクワク楽しみたい。
⑥石田陽人遊撃手 先輩たちに甲子園に連れて行ってもらえたので、1年生らしく楽しむ。
⑦浜野裕真左翼手 良い雰囲気で決勝に臨めた。甲子園にむけて、しっかり準備する。
⑧小林聖周中堅手 優勝できて最高。切り替えて甲子園に向けて状態を整えていきたい。
⑨喜屋武夢咲右翼手 最後の夏なので、好機での一本やチャンスメークなどで貢献する。
⑩渡辺聡之介投手 一発勝負で、大事な場面で失点ゼロに抑えて、甲子園も勝利に導きたい。
⑪月野龍投手 投手中心に良く守った。甲子園では日本一を目指し一戦一戦やっていく。
⑫斎藤廉武捕手 20人全員で戦えた。甲子園でもしっかり戦って、思い切りプレーする。
⑬細沢貫道投手 リズムをつくる野球ができた。甲子園でも泥くさい全員野球で頑張りたい。
⑭河内廉太朗三塁手 自分たちの野球ができた。甲子園でも、頂点を目指して全力で戦う。
⑮三井雄心三塁手 少しでも長く3年生と野球ができるよう、一戦必勝で戦っていきたい。
⑯小栗透和遊撃手 これまでの努力が報われた思い。甲子園でも、皆の応援に応えたい。
⑰山田悠莉左翼手 優勝まで導いてくれた3年生の背中を見て学び、来年につなげていきたい。
⑱江口英寿中堅手 前回は悔しい結果だった。森監督初めての甲子園で優勝をつかみ取る。
⑲鈴木夕稀投手 打線に助けてもらった。甲子園でも任されたイニングは全力で投げきる。
⑳田中樹人投手 一番緊張した。甲子園でも終盤を任されると思うが、しっかりと抑える。
大会を振り返って
4年ぶり声援/新鋭快進撃
4年ぶりにコロナ禍前の様式で登録選手20人が全員参加の開会式が行われ、制限なしの応援でスタンドが盛り上がった今大会は、Aシード浦和学院が頂点に立ち、12日間の熱い戦いに幕が下ろされた。
2年ぶり15度目の栄冠に輝いた浦和学院は、決勝まで7試合で81安打66得点を記録し、防御率0・69と圧倒的な強さを誇った。長年ともに埼玉の高校野球をけん引してきた花咲徳栄を退けての優勝は、価値ある1勝となった。
花咲徳栄は4年ぶりの王座奪還を果たせなかった。だが、増田、斉藤、柴田ら3年を中心に夏に仕上げてきたのはさすがだ。打線をけん引した2番生田目、3番石塚に、決勝で3回?を好投した上原ら2年も奮闘しただけに秋以降が楽しみだ。
今季県内公式戦15連勝中だった昌平は3季続けての制覇と悲願の甲子園初出場の夢には届かなかったが、花咲徳栄との準決勝では3時間35分に及ぶ激闘で1点差の好ゲームを演じ、スタンドを沸かせた。ノーシードから4強入りを決めた川越東は、山村学園、春日部共栄などの強豪を破り、ロースコアの試合を制する粘り強さで快進撃を見せた。
細田学園が2014年の創部以来初の16強に進出し、16校の半数に公立勢が食い込んだ。秀明英光が右腕小川の完投で大宮東を下し12年ぶり、春日部東は4―3で市川越に競り勝ち14年ぶりに準々決勝進出を決め、東農大三は17年ぶりに8強入りと健闘した。
2回戦で深谷商のエース鈴木が16奪三振、1回戦では春日部共栄のエース林が11連続奪三振と記憶に残る好投を見せた。
=埼玉新聞2023年7月29日付けラッピング紙面掲載=
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