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第97回選抜高校野球 浦和実が地元に帰還

智弁和歌山0-5 初出場で旋風

 第97回選抜高校野球大会第10日は28日、兵庫県西宮市の甲子園球場で準決勝2試合が行われた。初出場で4強入りした浦和実は、2年ぶり16度目出場の智弁和歌山に0―5で敗戦し、決勝進出はならなかった。

 

準決勝で智弁和歌山に敗れるも胸を張って引き上げる浦和実ナイン=28日、甲子園

 

 浦和実は一回に2四死球と3安打を許して2失点。準々決勝までの3試合で18回を投げ無失点だった先発石戸が立ち上がりにつかまった。三回には打者一巡の5安打に失策が絡み3点を献上し、0―5とされた。石戸は四回以降立ち直り、115球の熱投で5失点完投とエースの意地を見せた。
 打線は7安打を放ち、二回以外は毎回走者を出したが、集中打は生まれず無得点。智弁和歌山のダブルエース渡辺、宮口の継投に要所を抑えられた。
 浦和実の辻川正彦監督は「石戸は本来のピッチングではなかったけれど、頑張ってくれた。強かった。力尽きました」と悔しがりながらも、強豪に最後まで食らいついた選手たちをたたえた。同校の岡田慎一校長は「ここまで来られるとは思っていなかった。感謝の気持ち。勇気をもらえた。ありがとうと伝えたい」。初出場で見せた選手たちの快進撃に誇らしげだった。

 

胸を張れ 再び聖地へ

智弁和歌山―浦和実 2回裏智弁和歌山2死、藤田のセーフティーバントの打球を処理する浦和実の先発石戸(中央)。左は一塁手三島

 

 姿が見えなくなる最後の最後まで、その背中に惜しみない拍手を送られ聖地を後にした。ここまで目を見張るような「執念の野球」で4強まで勝ち進んだ浦和実の春が、幕を閉じた。辻川監督は「この舞台でやらせてもらえて感謝しかない。選手たちがよく成長してくれた」とやり切った表情を見せた。
 「真っすぐが高めに浮いたのを抑えられなかった。今までこんなこと一度もなかった」。一回に2四死球、被安打3で2失点。捕手野本は、先発石戸の投球に違和感を覚えた。失策も絡み三回までに5失点。それでも強豪相手に、挑戦者たちは笑顔を絶やさなかった。
 六回以降は毎回得点圏に走者を置いた。後続に粘りの打線を期待したが、相手のダブルエース右腕の制球力に力負け。準々決勝で見せたような集中打の再現はならなかった。無安打に抑えられた橋口は「コントロールが良くて初球から振りに行けなかった。きょうはあと一本が出せなかった」と悔し涙を流した。
 初の決勝進出、そして昨秋の関東大会で惜敗した横浜との再戦はかなわなかった。それでも副主将の深谷は「自分たちは強豪じゃないけれどここまで来られた。強い選手がそろっているチームだけが強いわけじゃないと、ほかの高校の希望になれた」と胸を張る。
 試合後、約1千人の大応援団が見守る三塁側アルプスへあいさつした選手たちの中には目に涙をため下を向く者もいた。すかさず「最後までしっかり!」と先頭の小野主将から一喝が飛んだ。
 1週間後には春の埼玉大会が始まる。激戦区を勝ち上がり、もう一度、甲子園へ。大舞台を経験し、辻川監督が選手たちと目指してきた野球は実り始めたばかりだ。

 

石戸 粘投115球
焦り、黒星 夏の糧に

 浦和実の快進撃を率いた左腕石戸が、115球の粘投で最後まで準決勝のマウンドに立ち続けた。「まだ終わらないでくれ」。0―5の九回、ベンチから打席を見守る石戸の表情は普段のポーカーフェースがはがれ落ち、どこかうつろだった。
 今大会19イニング目となる一回、初失点を喫した。初回に点を取られてはいけない。3戦連続で一回に先制点を挙げてきた智弁和歌山相手に、一番気を付けていたこと。だが、わずか2球でつかまった。
 「1番にツーベースを打たれて慌ててしまった」。昨秋から何度も勝利に貢献してきた石戸の口から、初めて焦りという言葉が出た。四回以降は立ち直り、ピンチで変化球の切れが増すなど本来の姿を取り戻したが、5失点が重くのしかかった。
 最速130㌔ながら、唯一無二の独特なフォームと高校生離れした精神力から成るマウンドさばきで今大会の台風の目となった。「打率の高いチームにも投げ勝てるような成長をして夏にまた戻って来たい」。この日の完敗を胸に、どこまで飛躍できるか楽しみな存在だ。

 

全力の守備 好捕球

左翼手 佐々木

3回裏智弁和歌山無死一、三塁、荒井の飛球を好捕する左翼手佐々木

 

 左翼手佐々木が全力守備で観衆を沸かせた。一回、1番打者の打球に飛び込んだがグラブをかすめ二塁打となり「守備範囲だった。次は絶対に取ろうと思っていた」。三回無死一、三塁で三塁手の頭を越えた打球に飛び込み好捕。三塁走者が生還し犠飛となったが、懸命なプレーだった。
 今大会、初の公式戦長打を放つなど8安打と大活躍。「今までやってきた野球をどんな相手にもできた。強い打球ももっと捕れるようにしたい」。猪突猛進なそのプレースタイルで夏に向けチームを引っ張り続ける。

 

チーム打撃で名誉挽回

一塁手 三島

8回表浦和実2死、三島が左中間を破る二塁打を放つ

 

 4番の一塁手三島は自らのミスを取り戻す一心でバットを振った。三回2死二、三塁で飛球を落とし、2者が生還した。その後の3打席は「エラーを取り返そうと必死だった」。六回に左前打で出塁すると、八回には左中間へチーム唯一の長打となる二塁打を放った。
 今大会はチーム打撃に徹した。大会前の練習試合で犠打のサインに不服な表情を浮かべ、その後の2試合でスタメンを外れた。「バントでもいい。チームのための打撃をする」と今大会は1犠打を決め、普段はしないバスターも試みた。
 冬の打撃フォーム改良が結実した大会だった。4試合で9安打6打点をたたき出し、初出場4強入りの快進撃を支えた。「憧れの甲子園でプレーできて幸せだった。夏もう一度この場所に戻ってくる」と代え難い経験値を得た主砲がさらなる成長を遂げる。

 

仕事人ぶり健在 全打席好機演出
深 谷

 準決勝でも8番深谷の仕事人ぶりは健在だった。三回に投手強襲安打を放つと、第2打席は四球で出塁。その後も犠打と進塁打を放ち、全4打席でチャンスメークした。「目立たないプレーが自分の仕事。内容は悪くなかった」とうなずいた。
 今大会は全4試合にフル出場。17打席で3安打も、8出塁3犠打とつなぐ野球を掲げるチームの陰の功労者となった。「試合を重ねるにつれて成長を示せた。春の大会に向けてミスをなくしたい」。再び埼玉の頂点に立つには不可欠な存在だ。

 

「好投手も打つ」 大粒の涙に誓い
山 根

 この日1安打に抑えられた3番山根は試合後、「打てないと勝てない。好投手からでも打てるように春夏とやっていきたい」と大粒の涙を流しながら言葉を振り絞った。
 静岡キャンプの練習最終日の3日に発熱。肺炎にかかり、関西入りした10日に合流した。外野のレギュラー争いが激しい中、大会直前の練習試合に出られず「ずっとずっと不安だった。でも監督が信じて使ってくれて、あこがれの場所でプレーできてうれしかった」。夢舞台で右翼手として好守備を見せつけた。

 

心一つ 応援に熱

 第97回選抜高校野球大会第10日は28日、兵庫県西宮市の甲子園球場で準決勝を行った。初出場の勢いそのまま4強入りを果たし、旋風を起こしていた浦和実業学園高校は、智弁和歌山高校に0―5で敗れ、初の決勝進出はならなかった。西の横綱との対戦に、三塁側アルプススタンドに駆け付けた約千人の応援団のエールはより熱を帯び、試合後はいつまでも拍手がやまなかった。

三塁側アルプススタンドから、チアダンス部や生徒たちが一丸となってエールを送った=28日午後、兵庫県西宮市の甲子園球場

 

 準々決勝が行われた26日、全国大会出場のため応援に来られなかったチアダンス部が全国6位入賞の結果を引っ提げ、再び参戦。1年リーダーの勝俣日菜さん(16)は「私たちだけじゃなく、浦実生みんなで応援できるのが楽しい。選手が全力を出せるよう頑張る」と思いを込めた。
 一回裏の智弁和歌山の攻撃が始まった瞬間、一塁側アルプスからは球場が揺れるような大声援。三塁側もこれが強豪校かと言わんばかりにライバルの応援にどよめいた。同部部長の照沼理桜さん(17)は「やばい。私たちももっと全員で声を出さなきゃ」とボルテージを上げた。
 惜しくも決勝に手は届かなかったが、創部から半世紀、春夏通じて初の甲子園で4
強に上り詰める大健闘。岡田慎一校長(62)は「諦めないことの大切さを子どもたちに教わった。他の生徒も学校に対する誇りが強くなった」と感謝。選手たちの大活躍に「次は絶対、人工芝。それを検討していきたい」とハード面の整備について口にし、硬式野球部のさらなる発展に期待した。

 

生徒、卒業生らも声援

学校体育館PVに170人

パブリックビューイングで声援を送る生徒たち=28日午後、さいたま市南区の浦和実業学園高校

 

 浦和実業学園高校(さいたま市南区)の体育館では、パブリックビューイング(PV)が開催され、生徒や保護者、卒業生ら約170人が大きな声援を送った。
 ハンドボール部の浅野希瑤理さん(17)は、24~29日に大分県で開催された全国高校ハンドボール選抜大会から戻ってきたばかり。ホテル滞在中や移動中に野球部の試合を観戦しており、「野球部が頑張っている姿を見て、自分たちも頑張ろうと励みになった」という。「石戸(颯汰)君を中心に波に乗って、勝って」とエールを送った。
 PV会場には、野球部OBの姿も。川越市の公務員望月修一郎さん(43)は元エースで、3年時の夏の県大会でベスト16まで進出した。今大会の初戦は、当時の仲間と一緒に甲子園に駆け付け、「憧れていた場所に行けて、アルプスの卒業生は大興奮。そんな中で選手たちは落ち着いてプレーしていて、メンタルの強さを感じた」と話した。
 浦和実は3回までに5点を取られたものの、エースの石戸投手は四回以降を無失点に抑え、後半の攻撃では毎回走者を得点圏に進めた。あと一本が出ず、グラウンドを後にする選手たちに、PV会場からは大きな拍手が送られた。望月さんは「(4強入りは)なかなかできないことで、次につながる経験だったと思う。夏も必ず球場で応援します」と健闘をたたえた。
 女子サッカー部の須賀ひよりさん(17)は「しっかりバットを振っていて感動した。1点を取ろうという姿勢が伝わってきた」と振り返り、「4月にサッカーの大会がある。野球部に負けていられない」と意気込んだ。

 

初の聖地「魔物も神様も」

浦和実の小野蓮主将(右から2人目)がホテルの方へお礼の色紙を渡す=29日午後、大阪市淀川区内

 

 準決勝翌日の29日、第97回選抜高校野球大会で4強入りを果たしたチームは晴れやかな表情で大阪を後にした。「甲子園には魔物もいたし、野球の神様もいた」。37年間、浦和実一筋の辻川監督は、やっと踏んだ聖地での戦いをそう振り返った。
 初出場の甲子園では1回戦で滋賀学園、2回戦で東海大札幌(北海道)を下すと、準々決勝では聖光学院(福島)に延長の末、タイブレークの十回に神懸かった打線のつながりを見せ一挙8得点で勝利。準決勝では、西の横綱・智弁和歌山に0―5で食らいついた。
 「あれだけ来たかった場所なのにまだ楽しかったと思えない」(監督)。10日に関西入りし、22日に初戦を迎えてからは連戦だった。初出場による周囲の反響は想像を絶するもので計3千人を超える保護者や生徒、OBらが応援に駆け付けた。
 期待に応えられるか不安で、指揮官は何度も夜中に目を覚まし、試合当日はいつも寝不足の青ざめた表情で臨んでいた。
 「試合中に本当に素直に顔や声に出して『勝たせてくれ』って俺たちに言うんです」と主将の小野。捕手野本は「一番そわそわしていて監督らしくない。でも自分たちと同じで大人も緊張するんだなって面白くて」。
 正直に感情を表に出す監督の人間くささ故に選手らの緊張はほぐれ、いつも通りの野球を発揮できた。「監督を勝たせたいと思う理由が分かりました」と小野。指導者もベンチで必死に戦っている。それが伝わるからこそ、浦和実の全員野球が成立したのかもしれない。
 選手はほとんどが埼玉出身だ。「地元を背負って埼玉のために戦えた。全国の高校に地元の選手だけでも戦えるんだぞと示せた」と右翼手山根。辻川監督は「何か残せたんだろうか。残せたとしたら、諦めずに頑張れば何とかなるんだというメッセージくらいかな」。執念でつかんだ甲子園切符。歴史の扉をこじ開けた浦和実が、胸を張って埼玉に戻ってきた。

 

選抜大会を振り返る浦和実の辻川正彦監督=29日午前、大阪市淀川区内

 

=埼玉新聞2025年3月29日付け1、13、19面、30日付け17面掲載=

 

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