2021年11月9日配信
過去の推移データから
倍率の動向を分析
10月末、第1回進路希望状況調査の結果が発表され、各校の倍率が出ました。
皆さんの中には、驚いたり不安になったり、またそれとは反対に少し安心した人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、第1回進路希望状況調査における倍率の見方についてお伝えします。
倍率はさまざまな要素で変動するので、今の段階で最終的な倍率を予想することはできませんが、過去のデータを見れば、ある程度まで今後の推移を予測することができます。今後の志望校選びの参考にしてください。
◆倍率は全部で6回出る
これから皆さんは何回も倍率を目にすることになります。
1 第1回進路希望状況調査(10月1日現在)における倍率
2 第2回進路希望状況調査(12月15日現在)における倍率
3 出願時の倍率
4 志願先変更後の倍率
5 受検当日の倍率
6 合格発表時の倍率
主なものを挙げると以上のとおりです。
◆それぞれの倍率の持つ意味
(1)第1回進路希望状況調査
第1回進路希望状況調査における倍率は、あくまでも希望を聞いているだけなので、最終的な倍率とはかなり異なる数字になることがあります。
10月1日現在の調査なので、この時点では説明会などにもあまり参加していないかもしれません。模試などの資料も不足しているかもしれません。そういう中での希望ですから、とりあえず「行きたい学校」を書いた人も多いと考えられます。
(2)第2回進路希望状況調査
第2回進路希望状況調査における倍率は、12月15日現在の調査です。
この時点では説明会や相談会参加も増え、中学校の成績や模試などの資料も出揃い、三者面談等も行われていることから、第1回に比べるとかなり現実的な希望になっていると考えられます。学校にもよりますが、この時点での倍率と、最終的な倍率がほとんど変わらない場合もあります。調査結果の発表は、年明け1月上旬です。
(3)出願
2月中旬、いよいよ実際の出願(入学願書等の提出)となり、この時点での倍率が発表されます。発表は令和4年2月16日になる見込みです。
第2回調査で倍率が非常に高かった学校はやや低下し、逆に低かった学校や定員割れ状態であった学校の倍率はやや上昇します。
(4)志願先変更
出願が終わった後、一度だけ変更の機会があります。志願先変更と言い、期間は2日間です。確実に合格を手に入れるためには利用していい制度ですが、変更する人の割合はそれほど多くはありません。したがって、これによって倍率が劇的に変化することはありません。
(5)受検当日と合格発表後
この後、受検当日の倍率が発表されます。この段階では受検者が増え、倍率が上がることはありません。私立受験の結果等で事前取り消しをする人が若干いるので、その分、受検者数が減り、倍率が多少低くなる学校があるということです。
合格発表(入学許可候補者発表)の後、もう一度倍率が発表されます。当初予定していた募集人員よりやや多めの合格者を発表する学校があるため、事後の確定数字として出しているものです。
◆今3倍の学校も最終的には2倍以下に
進路希望状況調査から受検当日にかけて各校の倍率は変動しますが、その変動の仕方にはいくつかのパターンがあります。
(1)徐々に下がって行く学校
(2)徐々に上がって行く学校
(3)あまり変わらない学校
普通科に限れば、第1回進路希望状況調査では2倍、3倍の高倍率であっても、最終的には2倍を下回り、1.5倍前後となるというのが過去のデータから導かれる結論です(ただし理数科では2倍超えもあり得ます)。
ここでは徐々に下がって行く学校の一例として、第1回進路希望状況調査で普通科倍率トップだった市立川越(3.95倍)を取り上げます。
同校は普通科と商業系専門学科(国際経済科、情報処理科)の併設校です。普通科の募集人員は140人とかなり少なめですが、320人や360人募集の学校が多い中、この募集人員の少なさも高倍率が出やすい要因です。
ここで同校の前年度入試(令和3年度入試)における倍率の推移を見てみましょう。
第1回進路希望状況調査 4.34倍
第2回進路希望状況調査 2.90倍
出願時 1.64倍
志願先変更後 1.64倍
受検当日 1.64倍
合格発表 1.62倍
以上のように前年度は4.34倍という超高倍率からのスタートでしたが、最終的には1.64倍まで下がっています(なお、合格発表時に1.62倍まで下がったのは、合格者を予定より1人多い141人としたためです)
念のため、それ以前も見てみます。
令和2年度
第1回3.30倍
受検当日1.20倍
令和元年度
第1回4.04倍
受検当日1.38倍
このように本番に向けて徐々に下がって行くのが同校の特徴であることが分かります。成績に不安がある人や、それほど強い希望ではない人が他校に変更するからでしょう。ただ、安定した人気校ですから極端な低倍率になることは考えにくく、今年度入試においても1.5倍前後まで下がるかどうかといったところでしょう。
普通科で倍率2位だった市立浦和(3.53倍)、3位だった川口市立(3.34倍)にも同様な傾向が見られます。
前年度入試(令和3年度入試)における両校の倍率の推移は次のとおりです。
市立浦和
第1回2.73倍
第2回2.29倍
受検当日1.88倍
川口市立
第1回3.06倍
第2回2.42倍
受検当日1.72倍
人気の高い両校ですから、最終的にも1.7~1.9倍程度の高倍率を維持していますが、2倍3倍のまま本番を迎えたことは過去にはありません。
2倍という倍率は合格者数と不合格者数が同じ、2倍以上という倍率は不合格者数が合格者を上回るということですから、併願私立を確保していたとしても、安全策を選択する受検生が多いということでしょう。
◆第1回倍率上位校はどう推移するか
では次に、前出3校以外の上位校が、前年どのような推移だったかを見て行きます。
学校名横のカッコ内は今回、第1回調査の倍率です。
4位 浦和西(2.32倍)
昨年1回2.34倍
同2回1.78倍
同当日1.38倍
5位 川越南(2.32倍)
昨年1回2.45倍
同2回1.99倍
同当日1.66倍
6位 南稜(2.00倍)
昨年1回1.97倍
同2回1.71倍
同当日1.34倍
6位 鳩ヶ谷(2.00倍)
昨年1回1.73倍
同2回1.59倍
同当日1.21倍
8位 大宮(1.99倍)
昨年1回2.19倍
同2回1.76倍
同当日1.48倍
8位 所沢北(1.99倍)
昨年1回1.84倍
同2回1.59倍
同当日1.43倍
10位 越ヶ谷(1.98倍)
昨年1回2.23倍
同2回1.72倍
同当日1.35倍
第1回でほぼ2倍か、それ以上の倍率となっている学校の前年の様子を見てみると、その後低下し、最終的にはほとんどが1.5倍以下まで下がっていることが分かります。
もう少し見てみます。
11位 越谷南(1.92倍)
昨年1回2.04倍
同2回1.69倍
同当日1.27倍
12位 上尾(1.85倍)
昨年1回2.26倍
同2回1.68倍
同当日1.21倍
13位 蕨(1.84倍)
昨年1回1.94倍
同2回1.63倍
同当日1.36倍
14位 越谷北(1.83倍)
昨年1回1.63倍
同2回1.46倍
同当日1.36倍
15位 浦和南(1.82倍)
昨年1回1.54倍
同2回1.32倍
同当日1.20倍
16位 深谷第一(1.69倍)
昨年1回1.45倍
同2回1.18倍
同当日1.13倍
17位 和光国際(1.67倍)
昨年1回1.58倍
同2回1.29倍
同当日1.13倍
17位 大宮北(1.67倍)
昨年1回1.97倍
同2回1.70倍
同当日1.31倍
19位 所沢(1.65倍)
昨年1回1.50倍
同2回1.23倍
同当日1.22倍
20位 入間向陽(1.60倍)
昨年1回1.56倍
同2回1.30倍
同当日1.08倍
これらの学校の多くは、前年は1.5倍ないし2倍以上からのスタートでしたが、最終的にはどの学校も1.2~1.3倍程度まで下がっています。
◆何が高倍率をもたらしているのか
以上見てきたように、第1回調査ではかなりの高倍率であっても、最終的には妥当な倍率に落ち着きます。
では、なぜこのような変動が見られるかということですが、前述したように第1回調査の時点では、「できれば行きたい」と思っている学校を書いた人も多いと考えられます。もちろん希望調査ですからそれで構わないわけですが、統計的にはそれらの人たちが倍率を押し上げていると言えます。
言い方には問題があるかもしれませんが、「本気の人」と「それほど本気ではない人」を合算したのが今回の倍率です。
そして「それほど本気ではない人」は、高倍率を見て諦めたり、他の学校を気に入ったりして、徐々に離れて行きます。そういう意味では、第1回調査の倍率は見せかけの倍率とも言えます。受検当日の倍率こそが、「本気の人」同士のリアルな倍率です。
受験生の皆さんは、先生方から、第1回進路希望状況調査の結果を見て、安易に志望校を変えないようにと指導されているかもしれませんが、第1回進路希望状況調査にありがちな傾向と、その後の推移を踏まえたアドバイスなのです。
(教育ジャーナリスト 梅野弘之)
=「埼玉新聞社 高校受験ナビ」オリジナル記事=
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