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【高校野球】13年ぶり4度目 聖望学園V

 第104回全国高校野球選手権埼玉大会は26日、県営大宮球場で決勝が行われ、ノーシード聖望学園が1―0でAシード浦和学院に完封勝利し、13年ぶり4度目の優勝と甲子園出場を決めた。
 聖望学園は、エース岡部が4安打完封。打線は三回無死三塁から2番大橋の右前への先制タイムリーが決勝点となった。
 優勝した聖望学園は、全国高校野球選手権大会(8月6~22日・甲子園)で県勢として5年ぶり2度目の深紅の大優勝旗を目指す。

浦和学院―聖望学園 13年ぶり4度目の優勝を決め、歓喜の輪をつくる聖望学園の選手たち=県営大宮

 

 

一致団結 涙の栄冠

 長いトンネルからくぐり抜けた。ノーシード聖望学園が、13年ぶりに高校野球の聖地・甲子園の切符を手にした。
 優勝を決めるとマウンドで人さし指を突き上げた聖望学園ナインの目には涙が光った。
 就任37年目の岡本監督は「信じられない。夢のようです。決勝までに連れてきてもらったことだけで感謝。まさかここで勝って甲子園に行けると思わなかった」と愛嬌(あいきょう)をにじませる笑顔と饒舌(じょうぜつ)な関西弁で選手たちをたたえた。
 13年ぶりの頂点は、険しい道のりだった。前回優勝した2009年夏以降は、決勝に2度進出したが、あと一歩のところで届かなかった。
 昨夏は初戦の2回戦で浦和学院に4―11の八回コールド負け。悔しさを胸に始動した今チームは、打線のつなぐ意識を徹底し、秋季県大会4強入りまで勝ち進んだ。
 今年の春季県大会は、課題の投手陣が踏ん張り切れず、市川越に6―7で初戦敗退。勝てない不安にチームは、この時点で甲子園出場は見通せなかった。
 岡本監督は「一からやり直すしかなかった。今の子どもたちは、みんなで一緒に一つのことをやるのは苦手。協調性をもってみんなで同じこと1カ月間やることを意識した」。チームは気持ちを入れ替えた。つなぐ意識を徹底した打撃練習に、課題の投手陣の整備をチーム一丸で取り組んだ。
 「練習は自信を持ってやってきた。思い切ってプレーするだけ」と東山。今夏、選手たちは覚醒した。2回戦から勝ち上がると5回戦で昨夏準優勝の昌平、準決勝で今春関東大会4強の山村学園を破るなど試合を重ねるごとに選手たちは成長。エース岡部と東山の継投策が完成され、投手陣は全7試合で防御率0・92を記録。打っては72安打42得点と堅実な攻撃が発揮された。
 優勝を決めて歓喜に沸く中、試合後と閉会式後の2度に分けて
指揮官はナインの手で胴上げされ、宙を舞った。「13年前より10㌔以上体重が増えたから上げにくかったちゃうんかな」と冗談を交えつつもうれしそうに目を細め、選手たちに感謝を込め握手をした。

 

聖望 球史に残る夏の雪辱
戦略的中 執念の1点

 九回1死一塁。エース岡部が最後の打者を遊ゴロ併殺に打ち取ると勝利を確信し、マウンドに大きな歓喜の輪が生まれた。聖望学園が13年ぶり4度目の栄冠に輝いた。試合後、岡本監督は「勝ったことが考えられない。信じられない」と動揺を隠しきれていなかった。
 24日の準決勝後、決勝の対戦相手を知り、「浦和学院どうやったら勝てんねん」と岡本監督。選抜大会4強の実績を持ち、投打でスター選手がいる浦和学院に対してどうやったら白星を挙げられるのか。「打ち合いになったら、勝負にならない。とにかく接戦に持ち込むしかない」。指揮官が練ったシナリオを選手たちは有言実行した。
 三回、先頭打者の1番菅野が「打った瞬間、二塁を狙っていたけど抜けてから次の塁を狙った」と中越えの三塁打で出塁。続く2番大橋が「ここに全てを懸けて楽しむしかなかった」と内角に甘く入ったスライダーを捉えて先制する。
 早い段階での得点に先発のエース岡部が好投を見せる。「浦和学院はすごい打者ばかり。攻めの気持ちを忘れずに挑んだ」。130㌔台の直球と左打者に対しての外から内に曲がるスライダーを武器に強気な内角攻めで凡打の山を築く。「浦学には絶対に負けないという強い気持ちを球に感じた」と主将の捕手江口も納得するほどのマウンドさばき。そして、九回を3人で抑えると勝利を確信し、ナインはマウンドへ。一塁手菅野は「興奮が凄すぎて、これは夢なのかな」とエース岡部の元に走り、中堅手東山は「浦和学院に勝てると思っていなかった。現実なのか分からない」と歓喜の輪に遅れて加わった。
 三塁ベンチ前で、泣き崩れる守部長と握手を交わす岡本監督には満面の笑みがあった。
 13年ぶりに足を踏み入れる高校野球の聖地・甲子園。決勝点を放った大橋は「甲子園で失うものはない。楽しむだけ」と意気込んだ。勝負強さと結束力で強豪校を倒した勢いで全国の名だたるチームに挑戦する。

 

大きな輝き 魂の123球

浦和学院―聖望学園 4安打完封と好投した聖望学園のエース岡部

 

 「埼玉最強」を誇った選抜4強の浦和学院を相手に、先発岡部が度肝を抜く4安打完封勝利。「絶対に1点もやるものか」。魂込めた123球でチームを甲子園に導いた。「夢がかなった」。試合終了の瞬間、エースはマウンドで仲間と抱き合い、喜びを爆発させた。
 忘れたくても忘れられない思い出がある。ちょうど1年前の夏大会。初戦の2回戦で浦和学院と対戦し、岡部は二回途中から登板。満塁本塁打を浴びるなど強打の浦学打線につかまり、チームも4―11の八回コールド負け。力の差を痛感させられた。「とにかく落ち込んだ」。練習を重ねても、打たれた場面だけが何度も脳裏によみがえった。
 夏の悔しさは夏でしか取り返せない―。エースとして強い覚悟で臨んだ今大会。準決勝まで全6試合に先発し、30回?を投げ自責点5。堂々の投球で、昨夏準優勝の昌平やAシード山村学園を破る快進撃の原動力となった。
 迎えた決勝戦のマウンド。相手は因縁の浦和学院。苦い記憶はあえて思い出さず、平常心で超攻撃野球を掲げる浦和学院打線に挑んだ真っ向勝負。130㌔台中盤の直球や鋭いスライダーが決まり、浦和学院のスコアボードに「0」が並ぶたびにスタンドは騒然。岡本監督が「一生に一度のピッチング」と形容する圧巻の投球を見せた。
 夏の大会で浦和学院を完封したのは2019年、浦和実の豆田泰志
(埼玉西武)以来、実に3年ぶり。埼玉の高校野球史にその名を刻んだ。
 県内公式戦31連勝中の絶対王者にリベンジし、さあ次は夢の甲子園。「仲間や家族に感謝して投げたい」。「大輝」の名前のごとく、聖地ではもっともっと大きな輝きを放つ。

 

浦学 王者の威厳 最後まで
鳴り潜めた強力打線

浦和学院―聖望学園 8安打1失点で完投した浦和学院のエース宮城

 

 夏の大会2連覇、県内5季連続優勝を狙い王者として挑んだ浦和学院だったが、聖望学園の先発岡部の前に1点が遠かった。10得点を奪った準決勝の花咲徳栄戦から、各選手の調子を考慮して4人の打順を入れ替えた打線は散発4安打と沈黙した。
 先発の宮城が三回に連打を浴び、1点を先に失う。今大会、4回戦の本庄東戦や準決勝同様、逆転に向けた軌跡を描きたかったが、聖望学園の先発岡部の制球を生かした投球を前に、スコアボードに「0」が並んでいく。
 各打者がバットを振り切り、劣勢でも強気で戦う「超攻撃野球」を掲げる打線だ。味方の援護を信じ、力投を続ける宮城に報いたかったが、持ち味の強力打線は鳴りを潜めた。
 鍋倉に代わり、今大会初めて4番に入った伊丹は「想像以上に良い投手だった。対策していたが、バッテリーがテンポを変えてきて打てなかった」と、攻略の糸口を見いだせなかった。
 九回無死二、三塁のピンチを切り抜け、最後の攻撃に懸けた。先頭の伊丹が四球で出塁。一発出れば逆転の場面で、打席に準決勝で逆転3ランの八谷。「今までも劣勢の場面は多かった。引いていても結果は出ない」と思いを込めて放った打球は遊ゴロとなり併殺。3季連続甲子園出場の道は絶たれた。
 選抜大会で4強入り、春の関東大会は5年ぶりの優勝を飾り、県内公式戦31連勝と記録を伸ばし続けた。常に目標とされ重圧の中で戦ってきた。森監督は「ずっと苦しかったがいい試合だった。素晴らしかった。紙一重で、野球の女神が向こうにほほ笑んだ」。
 甲子園出場を信じて疑わなかった選手たちは、大粒の涙を流した。それでも試合終了直前まで「王者」として堂々と戦った浦和学院の威厳は薄れることはない。

 

今大会を振り返って

私学勢8強独占/公立勢16強に2校

 開会式で3年ぶりの入場行進が行われ始まった大会は、聖望学園がノーシードから頂点に立ち、12日間の熱い夏に幕が下ろされた。
 13年ぶり4度目の栄冠に輝いた聖望学園は、7試合で72安打42得点を記録し、投手陣は092と驚異的な数字を誇った。浦和学院、山村学園、昌平を退けての優勝は、私学4強の強さを証明した。
 浦和学院は、県内5季連続優勝は果たせなかったものの、エース宮城に3番金田ら選抜4強の地力はさすがと言わんばかりだった。秋以降の新チームがどれだけ力を付けてくるのか楽しみだ。
 3年ぶりに4強入りした花咲徳栄は王座奪還とはならなかったものの、準決勝の浦和学院戦での約3時間の激闘は、意地と意地のぶつかり合いで心を躍らされた。学校創設100周年の山村学園は6試合中、5試合で先制点を奪い、リードを守る形で勝利し、自分たちの試合展開を確立させてきた。
 8強は、11年ぶりに私学勢が占めた。西武台が3回戦で1試合5本塁打を放って夏の最多記録タイに並んだ。武南の石橋は、今では珍しいエースで4番と投打でチームを引っ張った。川越東のエース伊藤は、けがから復帰し、準々決勝の完封劇は見事だった。大宮北は49年ぶり、所沢は35年ぶりに16強入りし、公立勢も健闘した。
 浦和麗明のエース吉川が1試合で20奪三振を記録した2回戦は記憶に残る。
 コロナ感染防止のため、声を出しての応援はできなかったが、3年ぶりのブラスバンドの応援は久しぶりにスタンドからの熱を感じた。

 

=埼玉新聞2022年7月27日付けA、B、C、D面掲載=

 

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